中山健二は、福山医療大学の研修医である。
 
 研修が終わってコンビニで弁当を買い、一人住まいのマンションに帰る。
 
 郵便受けでチラシと一緒に郵便物を取り出し、部屋に着くとテーブルにポンと放り投げた。
 
 そこで気がついた。 彼には、珍しく手紙が来ている。
 
 差出人不明の封筒は、何の飾り気も無い、見るからに普通の郵便物だった。
 
 中山は、何も考えることもなく無造作に封を開け、手紙を取り出した。
 
 その手紙の内容とは、こうだ。
 
 
 あなたは、この1週間以内にみんなに笑われながら死んでいくだろう。
 
 
 まるで予言でもするような無気味な手紙に中山は、眉を細め
 
 もう一度、差出人の名前がないか調べた。
 
 気味の悪い手紙だ。 一体誰の仕業なんだろう?
 
 腹が立ち、手紙を雑巾のように絞り、そのままゴミ箱へと投げつけた。
 
 うまい具合にゴミ箱に入ると少し気分が楽になる。
 
 冷蔵庫から缶ビールを出し、コンビニ弁当を袋から取り出した。
 
 ゴミ箱に捨てられた手紙は、絞られた形から徐々に緩んでいた。
 
 
 
 次の日、日ごろから気にくわない同じ研修医の村上から注意を受けた。
 
 昨日の帰り際に医療用のゴミを捨て忘れたせいでダメ出しを食らったのだ。
 
 みんなのいる前で、大げさにまくし立てられた。
 
 こないだの仕返しか?
 
 研修医の中でいちばんの美人である藤原さんに色目を使ったと冷やかしただけじゃないか。
 
 いつまで根に持ってんだ……。 ひょっとして手紙を書いたのは村上か?
 
 なんかむしゃくしゃする……
 
 ペアで行動する桜井に愚痴ると、桜井はいつも笑顔で気にすんなと言ってくれる。
 
 いい奴だ。 こいつは手紙の犯人じゃないな……
 
 その時、あまりにも自分があの手紙を気にしているのに気付き、苦笑してしまった。
 
 
 その日の夕方、イタズラを考えた中山は、研修医の集まる部屋の前でスタンバイ。
 
 みんながいるのをカギ穴から確認すると
 
 それを研修着の上にぶちまけて、叫びながら部屋の扉を開いた。
 
「患者に刺された!」
 
 腹にナイフがささり、血だらけの中山が入ってきた。
 
 藤原が悲鳴を上げ。みんなが青い顔になる。
 
 桜井は、びっくり顔で村上ときたら尻もちをつきやがった。
 
 中山があおむけに倒れる。
 
 ホラ見ろ、誰か笑っている奴がいるか? みんなびっくりしてるじゃないか!?
 
 それを確認したところでスクッと立ち上がり
 
「びっくりした? ごめん! ごめん! これ、ケチャップ、ケチャップ」 と笑いながら平謝り
 
「研修医なんだから血とケチャップぐらい瞬時にわからないと~」 と手を合わせて笑っていた。
 
 みんなもその行動に怒る気もなく場は、なごんでいた。
 
 一人文句を言いたそうな村上は、桜井によってなだめさせられていた。
 
 
 2、3日が無事に過ぎた夕方。
 
 研修医の集まる部屋のドアを開けようと、ノブに手を伸ばしかけた時
 
 それは、起きた。
 
 肩をたたかれて、振りむきざまだった。
 
 鋭く胸に突き刺さる痛みとともに耳元で囁かれた……
 
 ドアを開け逃げ込むように部屋に入ると倒れこんでしまった。
 
 傷口は深く、出血は酷い。
 
 助けを求めようにも痛さと朦朧としていて声にならない。
 
 大きく目を見開いたその眼には、
 
 またかと、と笑うみんなの顔、顔、顔……
 
 薄れゆく意識の中で耳元で囁かれた声が響く。
 
 
 期は、熟された……
 
 
 中山は、みんなの前で笑われながら死んだ。
 
 
 
 ちょうどその日が郵便ポストに手紙が投函された。
 
 1週間後の出来事だった。
 
 
 おわり